ジャパンカップ(GI)の30年を辿る(其の四)。

ふと、ジャパンカップ(GI)の過去30回について、勝ち馬を中心に辿ってみようと思いました。中島みゆきさんの「ヘッドライト・テールライト」を聞きながら記事を作成していると、やはり「ひとりプロジェクトX」という感じです。そんな訳で、その4回目は第10回から第12回。

ベタールースンアップ せん 鹿毛 1985.8.29生 豪州・H.J.マーティン氏生産 馬主・G.ファラー氏ほか 豪州・D.ヘイズ厩舎

ベタールースンアップ(1985.8.29)の4代血統表
Loosen Up(USA)
黒鹿毛 1973.3.26
種付け時活性値:0.875
Never Bend
鹿毛 1960.3.15
Nasrullah
鹿毛 1940.3.2
Nearco 1935.1.24
Mumtaz Begum 1932
Lalun
鹿毛 1952
Djeddah 1945
Be Faithful 1942
Dancing Hostess
栗毛 1964.3.22
Sword Dancer
栗毛 1956.4.24
★Sunglow 1947
Highland Fling 1950
Your Hostess
栗毛 1949
Alibhai 1938
Boudoir 1938
Better Fantasy
黒鹿毛 1975.11.12
仔受胎時活性値:0.25
Better Boy(IRE)
鹿毛 1951
種付け時活性値:1.875
My Babu
鹿毛 1945
Djebel 1937
Perfume 1938
Better So
鹿毛 1944
Mieuxce 1933
Soga 1938
Pure Fantasy
黒鹿毛 1968
仔受胎時活性値:1.50
ニクサー(FR)
栗毛 1962
種付け時活性値:1.25
Le Haar 1954.4.11
Niskampe 1955
Alecon
黒鹿毛 1961
仔受胎時活性値:1.50
Dalray(NZ)
鹿毛 1948
種付け時活性値:1.00
Boot Maid
黒鹿毛 1950
仔受胎時活性値:0.50

<5代血統表内のクロス:Djebel5×4>

ベタールースンアップ(1985.8.29)の中島理論的総括
母父 祖母父 曾祖母父
Loosen Up
(Never Bend系)
Better Boy
(My Babu系)
ニクサー
(Blandford系)
Dalray
(Tracery系)
形相の遺伝 料の遺伝 牝系 母の何番仔?
Better Boy
(Soga)
3.75 甥キタサンチーフ
(No.7-d)
5番仔
(5連産目)
第10回ジャパンカップ(GI)の結果(上位5頭。馬齢は現年齢表記に合わせる)


馬名 性齢
騎手 走破
時計
着差 上り
3F
馬体重
[前走比]
調教師
1 10 ベタールースンアップ せん5 57 M.A.クラーク 2:23.2    34.8 462
[不明]
D.ヘイズ 2
2 15 オード 牝4 55 D.ブフ 2:23.2 アタマ 34.8 432
[不明]
E.ルルーシュ 9
3 5 カコイーシーズ 牡4 57 R.コクレーン 2:23.2 アタマ 35.1 520
[不明]
G.ハーウッド 3
4 2 ホワイトストーン 牡3 55 柴田政人 2:23.4 1.1/4 35.2 450
[0]
高松邦男 5
5 8 アルワウーシュ 牡5 57 J.サントス 2:23.5 クビ 34.9 454
[不明]
A.ペンナ 7

1990年の第10回。このレースは、なんと言っても、最後の3頭の叩き合いです。先に抜け出して内で懸命に我慢しようとする大柄な牡馬カコイーシーズ(1986.3.7)、それを追う真ん中は黒い浅ブリンカーも鮮やかに中背中肉のせん馬ベタールースンアップ、さらに外から豪快に脚を伸ばす小柄な牝馬オード(1986.5.15)。コクレーン騎手のヨーロピアンアクションによる右ムチ、クラーク騎手の猛烈に猛烈を重ねた風車ムチ、そしてブフ騎手のやはりヨーロピアンスタイルの右ムチ。馬も人も壮絶なせめぎ合いのゴール前。決勝点、恐るべき勝負根性を見せ、「ぐぐぃ」とクビを伸ばしてわずかに先んじたのは、真ん中のベタールースンアップとクラーク騎手。これはシビレます。私、何度も見直しています(^^)

前年の第9回を制した新国馬ホーリックス(1983.10.7)が南半球の馬として初めてジャパンカップを制したと思ったら、第10回も豪州馬ベタールースンアップが続きました。2分22秒2の世界レコード、2分23秒2のジャパンカップ史上2位の好タイム(いずれも当時)。2年連続で勝利を収めた後、オセアニア勢としてジャパンカップを勝った馬は出ていませんが、第11回のシャフツベリーアヴェニュー(1986.9.14)3着、第12回のナチュラリズム(1988.10.19)2着と、平成の初頭はオセアニア勢の活躍が立て続けに見られたものです。ところが、近年は輸送の問題などもあり、オセアニアのチャンピオン馬の出走自体が見られません。

もういちど、オセアニアの強い馬の、強い競馬を、ジャパンカップで見てみたいものです。ジャパンカップこそ、環太平洋の架け橋たるレース、と思っていますので。

*

ゴールデンフェザント 牡 芦毛 1986.4.23生 米国・ケアレーン・ファーム&ヴィンテージ・メドウ・ファーム生産 馬主・B.マクノール氏 米国・C.ウィッティンガム厩舎

ゴールデンフェザント(1986.4.23)の4代血統表
Caro
芦毛 1967.4.11
種付け時活性値:0.50
フォルティノ
芦毛 1959.4.19
Grey Sovereign
芦毛 1948
Nasrullah 1940.3.2
Kong 1933
Ranavalo
鹿毛 1954
★Relic 1945
Navarra 1948
Chambord
栗毛 1955
Chamossaire
栗毛 1942
★Precipitation 1933
Snowberry 1937
Life Hill
鹿毛 1940
▲Solario 1922
Lady of the Snows 1928
Perfect Pigeon
鹿毛 1971.2.18
仔受胎時活性値:1.50

Round Table
鹿毛 1954.4.6
種付け時活性値:0.00
Princequillo
鹿毛 1940
Prince Rose 1928
Cosquilla 1933
Knight’s Daughter
黒鹿毛 1941
Sir Cosmo 1926
Feola 1933
Pink Pigeon
芦毛 1964.5.18
仔受胎時活性値:1.50
T.V.Lark
鹿毛 1957.2.12
種付け時活性値:1.50
Indian Hemp 1949
Miss Larksfly 1948
Ruwenzori
芦毛 1956.3.14
仔受胎時活性値:1.75
★Oil Capitol
芦毛 1947
種付け時活性値:0.00
Ruanda
栗毛 1948
仔受胎時活性値:1.75

<5代血統表内のクロス:Nasrullah4×5>

ゴールデンフェザント(1986.4.23)の中島理論的総括
母父 祖母父 曾祖母父
Caro
(フォルティノ系)
Round Table
(Princequillo系)
T.V.Lark
(Nasrullah系)
Oil Capital
(Blandford系)
形相の遺伝 料の遺伝 牝系 母の何番仔?
T.V.Lark
(Indian Hemp)
6.50 祖母がサンタバーバラHの勝ち馬
(No.3-o)
11番仔?
(11連産目?)
第11回ジャパンカップ(GI)の結果(上位5頭。馬齢は現年齢表記に合わせる)


馬名 性齢
騎手 走破
時計
着差 上り
3F
馬体重
[前走比]
調教師
1 14 ゴールデンフェザント 牡5 57 G.スティーヴンス 2:24.7    34.2 462
[不明]
C.ウィッティンガム 7
2 3 マジックナイト 牝3 53 A.バデル 2:24.9 1.1/2 34.4 414
[不明]
P.ドゥメルキャステル 2
3 11 シャフツベリーアヴェニュー せん5 57 D.W.ガウチ 2:25.1 1.1/2 34.6 500
[不明]
J.カミングス 6
4 5 メジロマックイーン 牡4 57 武豊 2:25.3 1.1/2 34.9 498
[0]
池江泰郎 1
5 13 ラフハビット せん5 57 J.キャシディ 2:25.4 1/2 34.7 430
[不明]
J.ウィーラー 8

1991年の第11回。メジロマックイーン(1987.4.3)が、生涯唯一3着以内に入線できなかったレース。それが、この1991年のジャパンカップです。ジャパンカップと同じ1981年の創設で知られるアーリントンミリオン(米GI)の勝ち馬だったゴールデンフェザント。かのサンデーサイレンス(1986.3.25)とステーブルメイトで、同じ釜の飯、いえ馬ですから同じ桶の飼葉(?)を食んでいた芦毛馬が、最後の直線であっという間の瞬発力を見せて勝利を収めました。2着は3歳牝馬マジックナイト(1988.3.9)-その父Le Nain Jaune(1979)が8歳時交配の0遺伝馬-

しっかし、レース後の勝利騎手インタビューに答えるゲイリー・スティーヴンス騎手が、男前ですねぇ。1991年当時は髪もふさふさでした(←失礼)。サスガ、2003年に米国の「People」誌で「世界でもっとも美しい50人」に選出されただけはあります。また、映画「シービスケット」では「アイスマン」ことジョージ・ウルフ騎手を演じたことでも知られますが、スティーヴンス騎手は同騎手を記念したジョージ・ウルフ記念騎手賞の受賞騎手でもありました。余談となりますけれど、映画「シービスケット」はアドバイザーとしてクリス・マッキャロン騎手も参加されていました。米国の名手お二方、共にウルフ記念騎手賞を受賞し、ジャパンカップを制した経験のある騎手でした。

ところで、ジャパンカップ勝ち馬を最も輩出している「誕生日」は何月何日かご存知でしょうか? 「ゴールデンフェザントの回で書くんだから、『4月23日』だろ」と思われたあなた、正解です。この第11回のゴールデンフェザントを皮切りとして、第13回のレガシーワールド(1989.4.23)、第17回のピルサドスキー(1992.4.23)と3頭の勝ち馬を輩出しています。ちなみに、私は「4月23日生まれの馬は府中芝2400mのGIで強い」と、勝手に思ったりしています。古くは1968年の七夕に行われた日本ダービー(現GI)でワンツーフィニッシュを飾ったタニノハローモア(1965.4.23)とタケシバオー(1965.4.23)、新しくは1997年の日本ダービーを制したサニーブライアン(1994.4.23)を思います。

*

トウカイテイオー 牡 鹿毛 1988.4.20生 新冠・長浜牧場生産 馬主・内村正則氏 栗東・松元省一厩舎

トウカイテイオー(1992.4.20)の4代血統表
シンボリルドルフ
鹿毛 1981.3.13
種付け時活性値:1.50
パーソロン
鹿毛 1960
Milesian
鹿毛 1953
My Babu 1945
Oatflake 1942
Paleo
鹿毛 1953
★Pharis 1936
Calonice 1940
スイートルナ
栗毛 1972.5.4
★スピードシンボリ
黒鹿毛 1963.5.3
ロイヤルチャレンヂャー 1951
スイートイン 1958
ダンスタイム
鹿毛 1957
Palestine 1947
Samaritaine 1949
トウカイナチュラル
鹿毛 1982.5.20
仔受胎時活性値:
ナイスダンサー
鹿毛 1969.3.6
種付け時活性値:
Northern Dancer
鹿毛 1961.5.27
Nearctic 1954.2.11
Natalma 1957.3.26
Nice Princess
栗毛 1964.3.23
Le Beau Prince 1952
Happy Night 1957
トウカイミドリ
鹿毛 1977.3.20
仔受胎時活性値:
ファバージ
鹿毛 1961.4.19
種付け時活性値:1.75
Princely Gift 1951
Spring Offensive 1943
トウカイクイン
鹿毛 1966.4.17
仔受胎時活性値:0.50
アトランテイス
鹿毛 1959
種付け時活性値:1.50
トップリュウ
黒鹿毛 1959.4.1
仔受胎時活性値:1.50

<5代血統表内のクロス:Milesian3×5>

トウカイテイオー(1988.4.20)の中島理論的総括
母父 祖母父 曾祖母父
シンボリルドルフ
(My Babu系)
ナイスダンサー
(Northern Dancer系)
ファバージ
(Princely Gift系)
アトランティス
(Djebel系)
形相の遺伝 料の遺伝 牝系 母の何番仔?
ファバージ
(トウカイナチュラル)
4.25 伯母トウカイローマン
(No.19-b 星友系)
2番仔
(2連産目)
第12回ジャパンカップ(GI)の結果(上位5頭。馬齢は現年齢表記に合わせる)


馬名 性齢
騎手 走破
時計
着差 上り
3F
馬体重
[前走比]
調教師
1 14 トウカイテイオー 牡4 57 岡部幸雄 2:24.6    36.3 470
[-2]
松元省一 5
2 7 ナチュラリズム 牡4 57 L.ディットマン 2:24.7 クビ 36.6 440
[不明]
D.L.フリードマン 2
3 9 ディアドクター 牡5 57 C.アスムッセン 2:24.8 1/2 36.1 478
[不明]
J.ハモンド 4
4 6 レガシーワールド せん3 55 小谷内秀夫 2:25.4 3.1/2 37.6 482
[+2]
戸山為夫 10
5 13 ヒシマサル 牡3 55 武豊 2:25.5 3/4 37.0 490
[-6]
佐山優 8

1992年の第12回。この年から国際GIとして認められたジャパンカップ。11月末、極東の冬枯れのターフに世界から強豪が集まりました。いやー、それにしても豪華メンバーですね。この年の外国招待馬7頭を記してみると、

  1. ユーザーフレンドリー(1989.2.4)
    →1992年の欧州年度代表馬にして、英セントレジャー(GI)、英オークス(GI)、愛オークス(GI)、ヨークシャーオークス(英GI)勝ち馬
  2. ナチュラリズム(1988.10.19)
    →当年のAJCダービー(豪GI)、ローズヒルギニー(豪GI)の勝ち馬
  3. レッツイロープ(1987.11.20)
    →1991年~1992年シーズンの豪州年度代表馬。その期間にメルボルンC(豪GI)、コーフィールドC(豪GI)、マッキノンS(豪GI)、オーストラリアンS(豪GI)勝ち
  4. ディアドクター(1987.5.12)
    →当年のアーリントンミリオン(米GI)の勝ち馬
  5. クエストフォーフェイム(1987.2.15)
    →1990年の英ダービー(GI)馬。当年のハリウッドターフH(現チャールズウィッティンガムメモリアルH、米GI)勝ち馬
  6. ドクターデヴィアス(1989.3.10)
    →当年の英ダービー、愛チャンピオンS(GI)勝ち馬。他にデューハーストS(英GI)勝ち
  7. ヴェールタマンド(1988.1.26)
    →ジャパンカップ出走時点では仏GII1勝、仏GIII1勝も、翌1993年にガネー賞(仏GI)を勝つ

むぅ、こんなメンバーはもう集まってくれないような気がします……。ちなみに、レッツイロープ(Let’s Elope)は「駆け落ちしよう」という意味ですが、当時CX系の深夜のスポーツ番組に出演されていた東ちづるさんが、「良い名前ですね」とおっしゃっていたことを思い出します(←アホ)。

  

閑話休題。さながら「世界最速の選手権距離王者を決めるレース」。そんな様相を呈した、国際GIとして初回の第12回ジャパンカップ。

勝ったのは、我が国のトウカイテイオーでした。

こんな豪華メンバーでも、戦前5番人気でも、なんにも関係なし。勝つ時はいつでもサラっと、鮮やかすぎるくらい、鮮やかに。

あの熱血系の美男子は、自身の持ち得る最大限の能力に人気が及んでいない時、「さもありなん」と勝利を収め、良い意味で人々を裏切ったのです。このジャパンカップ然り、翌年の有馬記念(GI)然り。

彼ほどに人心をつかむことの出来る馬は、そうそう現れません。美しさと強さと、儚さと脆さと。トウカイテイオーという馬は、その意味で、唯一無二です。

  

第5回を制したお父さんと同じく大外から発進して、ジャパンカップ史上初の父仔制覇。併せて、岡部幸雄騎手には史上初のジャパンカップ2勝目をプレゼント。

鹿毛の流星、目もと涼やか、脚並みも軽やかに、トウカイテイオー。その鞍上には桃色の帽子に「白、青山形一本輪、桃袖」の勝負服の岡部騎手。

馬と人、その綺麗さが渾然一体となって、今もまぶたの裏に、蘇ります。

  

では、以上オオハシでした。これから走る馬、人すべてが無事でありますように。

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