それぞれの交差。

今日、2007年10月31日は、岡部幸雄・元騎手の59回目の誕生日です。おめでとうございます。先日、天皇賞・秋(GI)が行われましたが、現役でいらっしゃった折は、いつでも天皇賞・秋の前後、あるいは当日に誕生日を迎えられていた訳です。

そんな岡部さんのJRAGI最後の勝利は、シンボリクリスエス(1999.1.21)による2002年の天皇賞・秋でした。54歳直前のGI勝利は、当然の如く、最高年齢によるJRAGI級競走の勝利記録です。

そして、「岡部さん」と「シンボリ」の組み合わせといえば、やはりシンボリルドルフ(1981.3.13)。そのルドルフが「アッと驚く」ギャロップダイナ(1980.4.25)に出し抜けを食らって2着に敗れたのも、天皇賞・秋、1985年のことでした。ついで言えば、ルドルフが敗れた日付が10月27日、クリスエスが制した日付も10月27日。丸17年掛けて、シンボリの馬で、雪辱を果たしたとも言えるでしょう。

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シンボリルドルフの名前を出したところで、彼の現年齢表記3歳春の好敵手と言えば、ビゼンニシキ(1981.4.26)ですね。ルドルフとニシキ、デビュー以来どちらの鞍上も岡部騎手でした。弥生賞(現JpnII)で無敗の両馬が初めてあいまみえた時、岡部騎手は迷わずルドルフを選ばれたと言います。彼の選択が間違っていなかったことは、結果として、ルドルフの戦績で証明されました。

さて、岡部騎手にフラれた後のニシキの主戦は、成宮明光厩舎に所属されていた蛯沢誠治騎手でした。「いぶし銀」という言葉がピッタリの蛯沢騎手。オールドファンにはスルガスンプジョウ(1971.5.25)やカネミカサ(1974.3.11)、そしてビゼンニシキ、スズパレード(1981.3.21)、タレンティドガール(1984.4.27)という馬たちの鞍上として、「イン突きの名人」で知られていました。

2000年にムチを置くまで、バリバリの現役だった蛯沢誠治さん。現役を引退された後も、小島太厩舎で調教助手として、JRA通算887勝の腕をもってして、イーグルカフェ(1997.2.10)マンハッタンカフェ(1998.3.5)サクラプレジデント(2000.4.11)などの調教を付けられていた蛯沢さん。そんな彼が亡くなったのは、2003年10月31日のこと。食道ガンのために亡くなった蛯沢さん。享年52歳。早すぎる、その死。死と背中合わせの騎手という職業において、無事に現役を終えられて、わずか3年後の死でした。

日本中央競馬会が発刊している月刊誌『優駿』。今、私の手許にある、1996年11月号と1997年11月号。1996年11月号の56ページを開くと、白い歯を見せられた素敵な笑顔の蛯沢さんの写真が、そこにあります。1997年11月号の59ページを開くと、第51回セントライト記念(現JpnII)の直線で、インコースを抜け出すシャコーテスコ(1994.4.27)と蛯沢さんの写真が、そこにあります。どちらも、ほんの10年ほど前の写真です。

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馬と馬との交差。シンボリルドルフとビゼンニシキ。どちらも直仔にGI馬を出し、さらに直孫までGI馬を出すという、優れた内国産種牡馬となりました。競走生活では一矢すら報えなかったニシキが、孫の代でルドルフよりも先にGI馬を出したのは、せめてもの意地の現れだったのかもしれません。ニシキが送り込んだ孫のGI馬ダイタクヤマト(1994.3.13)。ヤマトが生まれたその誕生日は、ニシキがどうしても勝てなかった相手と同じ、3月13日でした。

人と人との交差。岡部幸雄さんと蛯沢誠治さん。今日10月31日は、上述のとおり、岡部さんの誕生日であり、蛯沢さんの命日でもあります。岡部さんにとっては生まれ日であるこの日に、かつてしのぎを削った相手の蛯沢さんが逝ってしまわれたのでした。岡部さんのお祝いの日にこんなことを書くのはどうかと思います。けれど私は、人と人の、いのちといのちの交差を思わずにはいられません。岡部さんは、ご自分の齢を重ねられるたび、岡部ルドルフと蛯沢ニシキの戦いに、思いをはせられているのでしょうか。

馬と人との交差。先に挙げたシャコーテスコのセントライト記念は、蛯沢さんの騎手生活最後の重賞勝ちでした。そのシャコーテスコの調教師は、ルドルフも管理されていた故・野平祐二さんでした。そして、シャコーテスコのセントライト記念は、野平さんの調教師生活最後の重賞勝ちでもありました。これもまた、不思議ないのちの交差だったのでしょうか。

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馬と人が織りなす交差。これからも、絶えずあまねく続いて行く、いのちの営みの一部分です。

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